2012 Social Media Week Tokyoで発表したスライドと内容
事例をひとつ紹介します。
この写真のY君は1981年にうまれました。
Y君が生まれたとき、彼の両親が望んだことは社会の成功者として認められることでもなく、財産を築くことでもなく、「健康に育ってほしい」それだけだったはずです。
それでは彼はどんな青年になったでしょうか。
20数年後の夜、Y君は町田駅のハンバーガーショップの店内で遺書を書きました。
電車に飛び込んで自殺するためです。
会社員として片道2時間の通勤、土日の休みもなくひたすらに働く毎日の中で、彼はうつ病にかかっていました。
体は重く、人とコミュニケーションがとれず、判断力を失いました。
仕事を失い、結婚の話はなくなり、社会に復帰する希望を失っていました。
子供が大人になり、自ら命を絶つことを選ぶ。
この話は日本ではありふれています。この数年間で何万回も繰り返されてきたエピソードです。
次に世界に目を向けてみましょう。
世界の人口は、2025年には80億人を突破すると予想されています。
世界人口当たりのうつ病患者の割合ー有病率を少なめに、5%と想定します。これは少なめの仮定です。
すると、世界全体で、うつ病の症状に苦しむ人は4億人となります。
この4億人は、うつ病の本人だけです。
その家族や友人たちも考えれば、大変な思いをする人は12億人ほどになるでしょう。
うつ病の人は、ある程度の割合で自殺してしまいます。
将来、世界の自殺者は、第二次世界大戦の被害者数に匹敵する規模になるかもしれません。
では、うつ病の治療法にはどんなものがあるでしょうか。
1つには精神科医に受診し、薬をもらうというものです。
最もスタンダードな方法ではありますが、4億人に対応できる人数の精神科医を育成することは困難です。
また国によって健康医療保険制度にばらつきがあり、経済的に病院に通うことのできない患者がたくさんいます。
2つめはカウンセラーによるセラピーです。
うつ病に対しては認知行動療法というカウンセリング手法が有名ですが、カウンセリングは医者による「診察ー投薬」よりも多くの時間を必要とするため、こちらも多くの患者に対応することができません。
また、患者への経済的な負担も投薬に劣らず大きいため、だれもがカウンセリングを受けられるわけではありません。
精神科も、カウンセリングも、治療者の人数と経済コストという問題があります。
ではどうしたらいいか。
わたしたちは、この2つの問題を解決する手段を開発しました。
インターネットを通じて、4億人のうつ病患者が、4億人のうつ病患者のサポートをするのです。うつ病に効果的な認知行動療法を用いたコミュニティを作って。これなら、誰もが回復のサポートを受けることができます。
このアイデアを基にして、2012年1月に、U2plusというサービスをリリースしました。公開から1ヶ月で、1000人のユーザーと30人のカウンセラーが登録しています。
認知行動療法をベースにした3つのプログラムと、うつ病のユーザー同士でサポートしあう機能。
ユーザーはたのしかったこと、できたことをサイト上で共有し合います。
うつ病の生活の中でも、ポジティブなことを増幅させていきます。
フィードバックはボタンを通してのみ行われます。フリーテキストの入力はありません。ですので、通常のWEBコミュニティのようにネガティブな書き込みの連鎖が発生することはありません。
また、ユーザー間でフォローの仕組みを用意していません。
フレンド申請、ブロックといった行為には、楽しみと同時に、ストレスも発生するからです。
Twitterよりも、Tumblrに近いタイムラインになっています。
また、うつ状態の時にネガティブなこともおこるでしょう。
困った事に対して、認知行動療法のフォーマットに基づいて相談することもできます。具体的な解決法ではなく、悲観的な考え方に対して、別の考えを提案していきます。現在は1つの相談に、3つのアドバイスがつくことを目標にしています。
4億人のうつ病の方のうち、大多数の軽度〜中度のうつ病患者はこのサービスを利用し、重度の患者や効果のなかった人が1対1のカウンセリングを受ける、という未来をつくろうと思います。
町田のモスバーガーで自殺の誘惑に耐えた僕は、その後生きることを選択しました。
1年半実家で休養した後、うつ病の課題に取り組む事を決意しました。
千葉大学の特任講師、小堀修先生と出会い、プログラムの骨子が固まりました。
ビジネスプランコンテストで、起業資金を獲得しました。
Twitterとブログにより、同じうつ経験を持つエンジニア、デザイナーと出会い、開発がスタートしました。
うつ病経験のあるメンバーによって、専門知識に患者を合わせるのではなく、患者に専門知識を合わせた使いやすいサービスをつくることができると考えています。
U2plusはうつ病経験のある僕たちが自分で使いたいと考えて作っている、極めてパーソナルなサービスです。
しかし、世界の人たちの心に響くには、まず誰か一人の心に深く刺さるサービスを追求する必要があるのではないでしょうか。
わたしたちはスタートアップという形で、世界からうつを減らしていきます。
その目標の第一歩として、本日より、U2plusの英語版の申し込みをスタートしました。
URLはこちらです。
みなさん、わたしたちの試みに、ぜひご協力ください。